アスリートだったら「馬軍団」という名前に旋律を覚えるだろう。抜群のパワーを見せつけた王軍霞選手はアトランタ五輪でも金銀メダルに輝く大活躍だったが、その栄光が汚されようとしている。

馬軍団ドーピング事件簿

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馬軍団とドーピングの真相

 アスリートなら、もっとも興味を引くのが馬軍団のドーピング事件に関する疑惑ではないでしょうか。この真相について、当時、彼女たちと同じく遼寧省大連市に在して馬軍団が常用していたといわれる冬虫夏草を研究し、馬軍団の関係者にも調査を進めていた私が、知り得る情報を公開します。
 疑惑の中心は馬軍団を育て、率いて快挙を成し遂げた馬俊仁コーチ。彼は大連市金州区に生まれ育ち、病弱な父親の面倒を見ながら近所の山で薬草を採ってきては飲ませたという苦労人でした。学歴もスポーツに関する経験も専門的な知識もない粗野な男でしたが、当時を知る人たちは、強烈な個性の持ち主だと話してくれました。
 その馬さんが、中学校の代用教員となって女子陸上競技の臨時コーチを依頼され、面倒をみていた女子生徒たちが遼寧省の大会で優勝したことから、一躍注目されるようになりました。父親に飲ませていたという薬草を女子生徒の練習にも取り入れたことから成績が上がりだし、その結果、世界のひのき舞台で続けざまに快挙(後記)を成し遂げ、瞬く間に世界のスポーツ界で頂点に立ったのですから、鼻高々になるのも当然のことでしょう。

 一方で、オリンピックなど国際的なスポーツを管理管轄しているのは中国政府国家体育総局です。局長の袁偉民さんは、馬俊仁とは対照的にスポーツの名門・南京体育学院に進んみ、その後にバレーボール中国女子チームの監督に就任してロサンゼルス五輪など世界大会三冠を成し遂げるなど、こちらも中国スポーツ界きっての超エリートでした。
 互いに大きな実績を上げたこの2人、水と油より以上に反発し合い、ことごとく対立して、深い確執が生じていました。
 
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世界大会で馬軍団が記録ラッシュ

馬軍団01
1993年、ドイツのシュトットガルトで行われた世界陸上競技大会で、王軍霞・曲雲霞・張林麗・張麗・馬麗艶ら、馬俊仁が中学校時代から教えてきた選手たちが桧舞台で、トラック狭しと躍動して圧倒的な強さを示したのでした。
 世界がさらに驚いたのが、その20日後に開催された中国第7回全国運動会において、同じメンバーが立てつづけに5個の世界新記録を出したことです。3000m決勝では1位~5位の記録が世界歴代ランキングのトップ5に入るという超人的な快挙でした。
 世界新記録のラッシュに驚愕した世界陸連(IAAF)のドーピング検査官は、馬軍団をターゲットにして度々、遼寧省瀋陽市にある馬軍団の本拠地を訪れ、トレーニング期間中に抜き打ち検査を実施しましたが、禁止薬物は検出されていません。抜き打ち検査で検出されないのだから「シロ」といえるのですが、執拗に繰り返されるドーピング検査に嫌気をさした馬俊仁は、この黒幕と噂されていた政府国家体育総局を激しく非難し、これによって、袁偉民局長と激しい誹謗中傷が続きました。
 

週刊誌記者から出たドーピング疑惑

 あの事件から20年も経った2016年2月、突如として香港の新聞サウスチャイナ・モーニングポストが「中国作家の趙瑜氏が『1995年に大量の違法薬物を何年も服用させられたのは事実だ』と、王軍霞選手から手紙を受け取ったと公開し、手紙の写真を週刊誌のインターネットサイトに掲載した」と報じました
 この作家は当時から馬軍団の薬物疑惑を記事にした男で、馬俊仁を激しく誹謗して袁偉民局長寄りの論評を書いていましたが、新たに「手紙には他の選手9人の署名もある」と主張したのです。これについて、中国国民の反応は冷ややかでした。あの記録ラッシュから20年以上も経った発表ですから、この20年という空白の時間をどう説明するのかという声が上がりました。
 確かに馬俊仁コーチが、猛特訓のために開発した冬虫夏草ドリンクの調合レシピを中国企業に売却して巨額の報酬を得たり、日本商社に「馬軍団の疲労回復ドリンク」として販売権を売り渡すなど、選手たちとともに築いた栄光を独占して金儲けに走り、選手たちには何の謝礼もしなかったことが選手の嫉み恨みをかっていたことは事実です。
 しかし馬俊仁と選手たちの確執が如何に大きかろうと、選手として、自分たちの輝ける栄光を泥で塗るような馬鹿なまねはするはずもありません。特に、今だに世界記録保持者である王軍霞は国家の英雄であり超有名人で、テレビコマーシャルや講演などで結構な収入もある。その過去の偉業と信用を全て投げ打ってまで、今やチャウチャウ犬のブリーダーをしながら細々と暮らす馬俊仁に、攻撃を仕掛ける理由など無いと考えます。
 これら報道に対して国際陸上競技連盟(IAAF)は「まず第一は、その手紙が本物であることを確かめなければならない」と、中国陸上競技連盟に協力を依頼した上で事実関係調査を始める意向だ、と伝えられています。調査によっては何らかの回答が出されると思いますが、売れない週刊誌作家のねつ造記事(?)を一方的に信じて「馬軍団はドーピングだ」と決めつけてしまうのは、如何なものかという感があります。
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中国の有名なドーピング事件

▼中国の過去の主な薬物使用
1994年12月
広島アジア大会で競泳男子の4種目で金メダルを獲得した熊国鳴ら、陸上、自転車などのメダリスト計11選手から男性ホルモンの一種、ジヒドロテストステロンを検出したのでドーピングと断定しメダルをはく奪した。
1998年1月
水泳の世界選手権(オーストラリア)に出場予定の選手がシドニー空港で成長ホルモン剤の水溶液を押収される。他の出場4選手からは利尿剤の陽性反応、ドーピングと断定して2年間の出場停止処分となる。
2000年7月
5月の中国水泳選手権で女子水泳個人メドレーの世界記録保持者・呉艶艶が、ドーピング検査の際に筋肉増強剤が検出されドーピングと断定。4年間の出場停止処分となった。
 

ドーピング薬物エリスロポエチン

エリスロポエチン(EPO)
腎臓で生成され、酸素を運ぶ血液中の赤血球の数を増加することで、持久力を高める体内成分である。
スポーツ選手が高地トレーニングを行うのは、この身体反応を利用してエリスロポエチンが生成されやすい体質にするためであり、合成製剤「EPO」を使うのは、高地トレーニングを行わなくとも容易に圧倒的な持久力を手に入れることが出来るからである。
スポーツ界への蔓延は何年も前から指摘されていたが、もともと、腎臓から分泌され体内に存在する物質であり、合成製剤を注射したものとの区別が難しかったが、国際オリンピック委員会(IOC)は血液検査と尿検査を併用することで、シドニー五輪からのドーピング違反摘発を決定したのである。

馬軍団が励んだ猛特訓

 ところが馬軍団は、再三に亘ってチベット高原や昆明など3000m超の高地で、地獄の猛特訓に励んでいた。そして食事に冬虫夏草とスッポンのスープを供したことは有名で、猛特訓で傷んだ細胞組織を修復する生体反応や腎臓が活発にエリスロポエチンを生成する体質を手に入れていたと思われる。これらから総合して、馬軍団がドーピングをやったという主張の方が、明らかなデマゴギーだと判断するに至りました。

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馬軍団のドーピング事件簿
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